なぜ今、3つのコミュニティが集まるのか
CloudNative Days、Platform Engineering Kaigi、SRE Kaigi
「なぜこの3つが一緒にやるの?」と思われた方もいるかもしれません。実はこの3つの領域には、単なる技術的な隣接関係を超えた、深いつながりがあります。ここでは、クラウドネイティブ技術・SRE・プラットフォームエンジニアリングの関係性を紐解きながら、3者合同開催の背景にある思いをお伝えします。
クラウドネイティブ技術とは
まずは出発点となる「クラウドネイティブ」について整理しましょう。
Cloud Native Computing Foundation(CNCF)は、クラウドネイティブ技術を次のように定義しています。
クラウドネイティブ技術は、パブリッククラウド、プライベートクラウド、ハイブリッドクラウドなどの近代的でダイナミックな環境において、スケーラブルなアプリケーションを構築および実行することを組織にもたらします。コンテナ、サービスメッシュ、マイクロサービス、イミュータブルインフラストラクチャ、および宣言的APIがこのアプローチの例示です。
これらの手法は、回復性、管理性、および可観測性のある疎結合システムを可能にします。堅牢な自動化と組み合わせることで、エンジニアは最小限の労力で影響の大きい変更を頻繁かつ予測どおりに行うことができます。
(出典:CNCF Cloud Native Definition v1.1)
つまりクラウドネイティブ技術とは、クラウドの特性を最大限に活かし、柔軟でスケーラブルなシステムを構築するための方法論です。
クラウドの登場以前、インフラストラクチャの構築は物理的な制約や組織の壁に縛られていました。サーバーの調達には数週間から数ヶ月を要し、構成変更のたびに手作業のオペレーションが必要でした。しかしクラウドの進展により、あらゆるインフラストラクチャがAPIを通じてプログラマブルに操作できるようになります。この「APIエコノミー」とも呼べる変化が、それまでの組織の限界を超えたインフラストラクチャの構築を可能にしました。
その流れをさらに突き詰めたのがクラウドネイティブ技術です。コンテナによるアプリケーションのポータビリティ、マイクロサービスによるサービスの疎結合化、宣言的APIによるインフラストラクチャの自動化。これらを組み合わせることで、変化に強く、素早くスケールするシステムが実現できるようになりました。
SREとは
クラウドネイティブ技術がもたらした柔軟性とスケーラビリティは、間違いなく大きな恩恵です。しかし一方で、新たな課題も生まれました。
マイクロサービス化によりサービス間の依存関係は複雑になり、コンテナオーケストレーションやサービスメッシュといった技術スタックのレイヤーは増え続けます。システムの規模が大きくなるほど、障害の発生パターンは予測しにくくなり、従来の「手順書ベース」の運用では対応しきれなくなってきました。技術的な複雑さが、運用の困難さを引き起こしたのです。
この課題に対してアプローチするのがSRE(Site Reliability Engineering)です。
SREは、ソフトウェアエンジニアリングの手法を用いて運用の課題を解決する考え方です。Googleが提唱したこのアプローチでは、SLI/SLOによる信頼性の定量化、トイルの削減による自動化の推進、ポストモーテムによる学習文化の醸成など、エンジニアリングの力で運用を継続的に改善していきます。
そしてSREの実践において欠かせないのがオブザーバビリティ(可観測性)です。複雑化したシステムの内部状態を、メトリクス・ログ・トレースといったシグナルを通じて観測可能な状態にすること。何が起きているのかを正確に把握できなければ、信頼性の維持も改善もできません。オブザーバビリティは、クラウドネイティブ時代の運用を支える基盤と言えます。
つまりSREとは、クラウドネイティブ技術が生み出した複雑さに対して、ソフトウェアエンジニアリングの力で立ち向かい、システムの信頼性を守る実践なのです。
プラットフォームエンジニアリングとは
クラウドネイティブ技術が生み出したもう一つの課題があります。それは開発者の認知負荷の増大です。
クラウドネイティブのエコシステムは急速に拡大し、CNCF Landscapeを見れば、その技術の多さは一目瞭然です。コンテナランタイム、オーケストレーション、CI/CD、サービスメッシュ、シークレット管理、ポリシーエンジン……。DevOpsの理念に基づいて「You build it, you run it」を実践しようとすると、開発者が扱わなければならない技術の幅はどんどん広がっていきます。
本来、開発者がフォーカスすべきはビジネスロジックの実装です。しかし現実には、Kubernetesのマニフェストの書き方、ネットワークポリシーの設定、CI/CDパイプラインの構築といったインフラストラクチャ寄りの作業に多くの時間を費やしている、という状況が生まれてしまいました。
この課題に対してアプローチするのがプラットフォームエンジニアリングです。
プラットフォームエンジニアリングでは、開発者が必要とするインフラストラクチャの機能を、使いやすい内部開発者プラットフォーム(IDP)として提供します。複雑な技術スタックを抽象化し、開発者がセルフサービスで環境構築やデプロイを行えるようにすることで、認知負荷を下げるのです。
開発者は基盤技術の詳細を意識することなく、ビジネスに集中できる。プラットフォームチームはその裏側で、信頼性とガバナンスを担保する。プラットフォームエンジニアリングは、クラウドネイティブ技術の複雑さを「組織としてどうマネジメントするか」という問いに対する、実践的な回答と言えます。
3つの領域が交わるところに、本当のイノベーションがある
ここまで見てきたように、クラウドネイティブ技術・SRE・プラットフォームエンジニアリングの3つは、独立した技術トレンドではありません。
クラウドネイティブ技術は、クラウドの恩恵を最大限に活かし、柔軟でスケーラブルなシステムを実現するための基盤です。しかしその技術的な進化は、新たな複雑さも同時に生み出しました。
その複雑さに対して、運用・信頼性の観点からアプローチするのがSRE。開発者体験・生産性の観点からアプローチするのがプラットフォームエンジニアリングです。
この3つは、いわばクラウド時代のシステム開発を支える「三本柱」です。クラウドネイティブ技術だけでは複雑さに飲まれ、SREだけでは開発者の生産性が追いつかず、プラットフォームエンジニアリングだけでは信頼性の担保が難しい。3つを体系的に理解し、組み合わせて実践することで、はじめて「品質高く、かつ生産性を高める」という、本当の意味でのイノベーションが可能になります。
クラウドネイティブ会議は、まさにこの3つの交差点に立つイベントです。
CloudNative Days、Platform Engineering Kaigi、SRE Kaigi —— それぞれのコミュニティが培ってきた知見を持ち寄り、領域を越えた対話と学びの場をつくります。
ぜひ、この新しい試みにご期待ください。